東京/すみだ北斎美術館で「北斎漫画」に魅せられる

江戸時代の絵師、葛飾北斎といえば「冨嶽三十六景」など錦絵がまず思い浮かびます。
では、ほかの作品は?といえば、今までの半生でほとんど知り得ませんでした。
そんな自分が50歳を過ぎ、『北斎漫画』に出合い、類まれな技巧と創造に心奪われました。

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北斎は約250年前、本所(ほんじょ)割下水(わりげすい)(現・墨田区北斎通り)付近生まれ。その地に立つ「すみだ北斎美術館」

きっかけは都内の現代アートギャラリーで手に取った一冊の本でした。
メキシコ人アーティストが影響を受けた本として『北斎漫画』(青幻舎)を選んだのです。
鬼才アートディレクター祖父江 慎さんが手がけた表紙に惹かれ、開いて仰天しました。
『北斎漫画』とは心おもむくままに描きちらした絵。
全国の弟子たちに絵の手ほどきをするため、55歳のときに初編を出版した絵手本だとか。
伸びやかな線で描かれた絵は、たっぷりのユーモアもまじえ、ふんわりと軽いけれど、ひとつひとつの技巧に唸らされます。
200年ほど前に初編が刊行された『北斎漫画』は総ページ数970、約4,000点の図版を掲載。
人物や風俗、動植物、風景、気象から幽霊まで、ありとあらゆるものを描く多様さも圧巻。
途方に暮れるスケールに気おされながら、北斎漫画をさらに知りたいと欲求が湧きました。


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すみだ北斎美術館の常設展示室。天井に北斎が信仰した北斗七星が輝き、床に隅田川を模した光が揺らぐ

そこで、墨田区の弘前藩津軽家・大名屋敷跡地に立つ「すみだ北斎美術館」を訪ねました。
周辺には北斎が暮らした時代の町割が残り(東京都立図書館デジタルアーカイブ・TOKYOアーカイブHP参照)、見通しのよい直線的小路で町は区切られています。
美術館前を流れていた排水路の本所割下水は埋め立てられましたが、町の骨格から北斎が歩いていた当時の街並みが想像できます。
跡地の半分以上は遊ぶ親子で賑わう公園になっていて、その一角に控えめに立つ美術館の姿は地域に違和感なく受け入れられている印象を受けました。


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常設展示室では、時々動く晩年の北斎と、浮世絵師だった娘、阿栄(おえい)が暮らした部屋を再現

私が入場したのは美術館の常設展示室。
中に入ってまず心地よく感じたのが明るさをあえて抑えた照明でした。
スポット光により空間に豊かな陰影ができ、幻想的な気分になります。
入口近くでは、19~35歳の習作時代の作品を展示。
他の時代の作品と同じくタッチパネルモニタで解説され、その解説が日本語のみならず、英語、韓国語、中国語・繁体字&簡体字に切り替わる、外国人への配慮に感心しました。


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習作時代の作品を解説する、多国語対応のタッチパネルモニタ

さらに順路を進むと、<錦絵ができるまで>のコーナーがあります。
ここでは錦絵「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」を例に、色が重ねられていく制作工程を紹介。
この有名な錦絵を北斎は70歳を過ぎて生み出したばかりか、浮世絵で風景画という、それまでなかったジャンルを確立した偉業にも驚かされます。
心がけ次第で、老いても創造性は絶えなく進化できるのだと勇気をもらえます。

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<錦絵ができるまで>の展示

さらに壁側に並ぶ錦絵、肉筆画などを観て、創作の変遷をたどった後は、『北斎漫画』など絵手本を展示するコーナーへ。
絵手本をタッチパネルモニタで紹介しているのですが、これが実にワクワクするのです。
絵手本を見ながら筆で模写するように指でなぞると、模写を実体験する感覚になります。
北斎から絵を習っているような体験が愉快で、時間を忘れて没頭。
△や〇、□などシンプルな図形を組みわせて動物を描くパネルでは、現代のグラフィックデザインに通じる、北斎の斬新な発想に心酔しました。


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線を指でなぞると北斎の絵手本に描かれた絵が現れる


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図形を組み合わせて動物を描く手法を指南。『北斎漫画』より

この常設展示室は、わかりやすさ、作品への親しみやすさを重視し、何をどう見せるべきか、優れた美的センスで「編集」された展示空間だと感じました。
展示の配列、作品の選択、展示手法が考え抜かれている。
そのため短時間で膨大な創作の全体像、要点を把握しやすいと思います。
私自身としては、大好きな錦絵「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」の波の動きの表現、精緻な描写、大胆な構図などの素地が『北斎漫画』にあったことを知ることができました。
作品の背景を、楽しみながら知ることで、北斎への理解をより深められます。
北斎ファンのみならず、多くの北斎ビギナーに訪問、鑑賞をお勧めしたいです。


【すみだ北斎美術館】
墨田区亀沢2-7-2

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