スイスの公共テレビ放送

海外旅行に行かれた際、滞在先のホテルの部屋で現地のテレビ番組を観たことはあるだろうか？日本人の宿泊客が特に多いホテルなどでは、ひょっとしたら日本人向けに日本のテレビチャンネルが観られるサービスがあるかもしれない。しかし、ほとんどの場合は現地のテレビ局ばかりで、「何となく点けてはみたけれど...」という感じではないかと思う。そこで、今回はスイスの代表的なテレビ局とその番組構成の特徴をちょっとだけご紹介したい。

スイスにも、いわゆる日本のNHKに相当する公共放送局がある。とは言っても、スイスは公用語が3つ（国語は4つ）もある多言語の国なので、独語圏向けにドイツ語局SRF、仏語圏向けにフランス語局RTS、伊語圏向けにイタリア語局RSIという別個の局（最終的な親組織はどれも同じなのだけれど）がある。おおよそのホテル客室にあるテレビでは、これらすべての局が視聴できるか、もしくは最低でもそのホテルがある言語圏のチャンネルは視聴できるはずだ。

チューリッヒ州のロイチェンバッハにあるドイツ語公共放送SRFのテレビスタジオビルはこんな見た目。

（Copyright: SRF/Oscar Alessio Quelle: www.srf.ch/medien/galerie/ ）

スイスの公共テレビ放送は、各国語版とも第一と第二がある。第一は独自制作のプログラム（ニュース、クイズ、生活・健康情報、スイスドラマ、政治討論、歌謡ショー、ドキュメンタリーなど）が中心で、第二はスポーツ中継や映画・海外ドラマシリーズなどがメインになっている。第一ではスポーツ中継はやらないし、第二では（日曜夕方に放送されるスポーツニュース以外）ニュース番組は放送されないのだ。

旅行者にとって恐らく最も関心が高いのは、翌日の天候。最近はもちろんインターネットなどでも情報を得ることができるが、最終的には地元のテレビニュースで知るものがやはり頼りになる。天気予報コーナーは各言語の第一放送番組枠で色々な時間帯に放送されているが、一番詳しいのは夜のニュースの前後にあるものだ。

上の写真は、とある火曜日の独語圏第一放送（左）と第二放送（右）の番組表の抜粋。赤下線はニュース番組、赤丸で囲ったものが天気予報枠（独語圏では天気予報はニュースの後にある）、黄色下線はスポーツ中継だ。今記事1枚目の写真にあるテレビスタジオビルの屋上に「やぐら」の様な施設が見えるが、午後6時からと午後7時半からのニュースの後にある天気予報はこの「屋上やぐら」から生中継される。天気予報の内容が一番詳しいのは、午後7時半からのニュースの後にあるものだ。

ニュースの時間帯は独語圏第一（SRF1）・仏語圏第一（RTS Un）・伊語圏第一（RSI LA1）でそれぞれ異なり、天気予報枠が出現するタイミングもバラバラだ。公共放送局なんだからニュースや天気予報の時間帯ぐらい全土で統一すればいいのに...と思うところだが、各国語版の公共放送はそれぞれの局が独自の方針で製作しているので、局間の歩み寄りとか互換性みたいなものは基本的にないのが面白い。

スポーツに興味のある方には、第二放送局は特に魅力的だ。例えばサッカーの欧州チャンピオンズリーグ戦では同じ日の同じ時間帯に複数の試合が組まれているが、独語局SRF zweiでは基本的にドイツ語圏で人気のあるチームが出る試合（つまりドイツのブンデスリーガ所属チームなど）、仏語局RTS Deuxではフランスのクラブチーム、伊語局RSI LA2ではイタリアのクラブチームが戦う試合が主に放送されるからだ。もちろん全局が同じ試合を中継することもあるが、違う試合が中継される場合にはそれぞれを「はしご」しながら観戦することができるのだ。F1やスキー、サッカーのW杯、テニスの四大大会など、世界規模の大きなスポーツイベントの生中継があるのは当然。そしてオリンピックの期間中などは、合間に「まとめニュース」をはさみつつ、ほぼ終日何らかの競技が生中継で放送される。

ちなみに、スイスにも日本のNHK受信料に相当するシステムがある。スイスの公共放送も基本的にはこの受信料で成り立っているが、番組の合間には一般企業のCMもそれなりに入る（日本のものほど頻繁ではないけれど）のも特徴だろう。スイスの公共放送受信料システムについては近いうちに別の記事でご紹介したい。

公共放送のテレビ番組から垣間見えるスイスの顔は、有名観光地で見られるそれとはまた違った面があるはずだ。言葉があまり分からないなど多少の不自由はあるだろうけれど、「流し観」するだけでも面白い発見があるかもしれない。