スイスの直接民主制と国民投票

SW_20141002_01.jpg(村役場の前に掲げられた、「今週末は投票日です」の看板)

間接民主制をとっている日本では、「投票」はほぼイコールで議員を選ぶ(又は最高裁の裁判官を審査する)「選挙」のことを指す。先日英国で行われたスコットランドの独立についての国民投票は日本でも大きなニュースになったと思うが、日本では憲法改正の是非を問うような特別な事情がない限り、国民が国政の行く先について直接意思表示をする機会はない。

翻ってスイスの国政は、世界でも稀な直接民主制。選挙で選ばれた議員で構成される連邦議会や州議会ももちろんあるが、そこで討議された議題について最終的な結論を下すのは一般スイス国民だ。スイス直接民主制の顕著な例は、内アッペンツェル準州やグラルース州などいくつかの自治体で現在も行われているランツゲマインデLandsgemeinde。広場に有権者が一同に会し、様々な案件を挙手によって採決するこのランツゲマインデの映像を見たことがある方もいらっしゃるだろう。

スイスでは議員選挙とは別に、様々な国政・州政の動向について国民が投票する機会が年間最大4回もある。それ故だろうか、スイス人はおしなべて政治(とりわけ内政)事情に関心が高い。毎週金曜日の晩には大きな時間枠を割いて政治討論をするテレビ番組が放送され、またどんな機会でも大人が数人集まるとその会話が政治に関することで盛り上がるのは決して珍しくない。そしてそんな政治の話題が出るのが、いわゆるインテリ層に限ったことではないというのも面白い。

2014年には4回の国民投票が予定されていて、1回目と2回目は既に終了(2月と5月)。そして先日(9月28日)、今年3回目の投票があった。投票できるのはスイス国民だけなので、私のようにスイスに在住していてもスイス国籍を持たない外国人には投票権がない。

投票用紙と関連資料は投票日の約1ヶ月前にすべての有権者宛てに郵送され、有権者はそれぞれの事情によって「郵送による事前投票」もしくは「投票日に投票場で投票」を選ぶことができる(インターネット投票ができるのは、現段階では在外スイス人のみ)。

SW_20141002_02.jpg(不正利用防止のため、画像の一部を加工してあります)

投票用紙と一緒に送付される資料では、その時の投票の案件や意図・焦点(つまり何についてイエスかノーかを言うのか)、そして連邦参事および議会の結論などが大変簡潔かつニュートラルな視点から説明されている。有権者はこの資料をよく読み、投票日までに複数回放送される討論番組などで各派の意見を聞き、友人・知人達との意見交換を経て、投票用紙に「はい」又は「いいえ」を自筆記入する。

SW_20141002_03.jpg(不正利用防止のため、画像の一部を加工してあります)

今回の投票では、全土共通の国民投票は2案件。1つ目は「全国共通の公的健康保険制度を導入するかどうか」、2つ目は「外食産業における付加価値税課税を公平にするかどうか」だ。これらが一体何なのかということについてはあまり興味がないと思うのでここでの説明は省くが、結論だけ言うと、大方の事前予想の通りどちらも否決された。

SW_20141002_04.jpg(公的健康保険制度導入反対派の広告。賛成派の広告も並べて掲載したかったので探したのだが、家の周辺では全く見つけられなかった。)

バーゼルの2州(バーゼル・シュタット準州とバーゼル・ラント準州)では、この国民投票と同時にかなり重要な「州政投票」もあった。現在2つあるバーゼルの州―と書いてしまうとちょっと語弊があるのだけれど、説明が複雑になるのでこれも省略します―を1つに合併させるかどうかというものだ。投票結果は、バーゼル・シュタット準州は54.9パーセントが賛成、バーゼル・ラント準州は68.3パーセントが反対。双方が賛成しなくては合併にはならないので、これも否決された。

世界レベルで少なからず影響を及ぼしたスイスの国民投票の代表は、2001年3月の「Ja zu Europa(ヨーロッパに賛成)」。これはスイスの欧州連合(EU)への参加について国民の意思を問う投票で、連邦参事と議会の方針は「ノー」。そして国民投票でも76.8パーセントという圧倒的な「ノー」投票によってEUへの参加が否決された。1年後の2002年3月にはスイスの国連参加についての投票があり、これは議会側が「イエス」の方針を表明。注目の国民投票では54.6パーセント対45.4パーセントという接戦で可決となった。

この様な国レベルの案件の他に、前出のバーゼルでの案件に代表される州や地方自治体レベルの投票もある。政治について議論する・政治の話で盛り上がるなどと言うと、何だか知識者ぶっている様で面倒臭いイメージがあるかもしれない。しかし投票の結果は自分達の生活に直結しているので、好むと好まざるとにかかわらず、スイス人が政治に無関心でいることは難しいのだ。

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Asami AMMANN-HONDA

スイス東部トゥールガウ州の農村在住。元書店員、現在は兼業主婦(介護補助士&日本語教師&日独英通訳)。趣味はスポーツ・園芸・料理、専門は音響映像技術。

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