生き続ける伝統 in ベルン

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スイス

2012年12月14日
カテゴリー:ヨーロッパ | スイス

生き続ける伝統 in ベルン

キリスト教圏の国では、アドヴェントAdvent(待降節)と呼ばれるクリスマス前の4週間はちょっと特別だ。アドヴェント期間中にある4回の日曜日には特に「主日」という名前がついていて、ロウソクが4本立った飾り物に主日ごとに火を灯してゆきクリスマスを待ちわびるという習慣があったりする。各地で開催され観光客にも大人気のクリスマスマーケットはこのアドヴェントの第一主日―つまりクリスマス前の4回の日曜日のうち最初の日曜日―前後から始まるのが一般的だ。スイスのクリスマスマーケットというとアインジーデルンやバーゼルのものが有名だが、首都ベルンでも素敵なクリスマスマーケットが開催される。広場には巨大なツリーが設けられ、飾りやろうそくなどクリスマスグッズを販売する色とりどりの露店が並ぶマーケットはただそぞろ歩くだけでも嬉しい気分になるものだ。しかしベルン人にとっては、このクリスマスマーケットの前にもっと重要なモノがある。ベルン人が誇る、スイスの首都を代表する伝統の大イベント―それはツィベレメリットZibelemäritだ。

 

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ツィベレメリットというのはベルン州で話されている「ベルンドイツ語」と表現される特徴的な方言による名前で、標準ドイツ語で言うところのツウィーベルマルクトZwiebelmarktつまり「タマネギ市」だ。一国の首都の、しかも連邦議会議事堂や連邦銀行の建物の真ん前で開かれるビッグイベントがタマネギ祭り!というこの親近感溢れる雰囲気はベルンのベルンらしい所だと思う。



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ツィベレメリットは毎年11月の第4月曜日に開かれる年一回・一日限りのマーケットで、これがベルン人にとっていかに重要かを示す証拠にその日は市街地の学校も半ドンになる。スイス各地からの臨時列車が運行されるほど多くの訪問客で賑わい、お菓子やホットワイン・昔ながらの陶器・各種お土産雑貨などを売るスタンドも見られるが、主役はもちろん市の名前が示すとおりタマネギ(とニンニク)。これらはすべて地元周辺産のもので、ゼーランド地方Seelandと呼ばれるヌーシャテル湖・ビェル湖・ムルテン湖の三湖の間/周辺に位置する地域一帯・そして特に伝統的にはベルン州のお隣フリブール州のモン・ヴーイ地区Mont Vullyの農家が栽培したものが有名だ。これらのタマネギやニンニクは単に野菜として積まれて売られるのではなく、手作業によってススキや藁に結び編んで形作られたツウィーベルツォップフZwiebelzopf(=編みタマネギ)やツウィーベルクランツZwiebelkranz(=タマネギの冠)といったオーナメントとして露店に並ぶ。


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使われているタマネギやニンニクは食べるための野菜としてもハイクオリティなので、これらは飾るだけでなく後日美味しく食べられるのが嬉しい。モン・ヴーイの人たちはこの編みタマネギのことをトゥリュチェTrütscheと呼ぶが、これは彼らの地元で話されているセンスラー方言のドイツ語で「三つ編み状の形」(標準ドイツ語ではツォップフZopf)を指す言葉だとのこと。パンの種類にもツォップフというものがあり、これはスイス人が大好きな「バター入りの編みパン」のことだが、これもセンスラー方言ではトゥリュチェになる(もちろんツォップフと言っても通じるが)。私がトゥリュチェを購入した露店の売り子さんによると、トゥリュチェを編む作業自体は1個あたり15分ほどだが、それよりも編む前のタマネギを整える準備作業(外皮を取り除き、可食部分直近のツヤツヤした皮一枚のみをきれいに残す)に最大の手間と時間がかかるのだそうだ。

 

正式な市の開始は朝6時ぐらいからなのだが、現実的・慣習的な開催開始は何と明け方の5時前。このフライング的開始時間は、その昔「朝まだ早い時間帯はお客の数が少なく商品があまり売れないので、購買促進のため売り子は一日のうちで商品の値段を一番安く設定していたから」というのが理由。お客さんの数が多くなってくると皆良い商品を我先にと欲しがるので「売り手市場」になり、時間が遅くなるにつれて商品の値段も上がっていったのだそうだ。



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現在は早朝でも昼過ぎでも固定価格で、その商品ラインナップは4フラン(約400円)程度の小さな飾りから100フラン(約一万円)を超える豪華で巨大なトゥリュチェまで幅広い。可愛らしいドライフラワーが付いた10~30フラン(約1000~3000円)ぐらいのものが主流で、私が想像していたよりはかなり手ごろな価格だ。お昼前には商品が完売という出店者も珍しくなく、そうでなくとも良いトゥリュチェは朝の時間帯に売り切れてしまうので、早起きをしてゲットしたい。お腹が空いたら名物のツィベレクエヘZibelechueche(タマネギのヴェーエ/パイ)やガーリックブレッドでの腹ごしらえがお薦めだ。



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タマネギ市の起源については様々な説や逸話があり、一番有名なものは「1405年にあったベルン大火の際に救援に尽力し大活躍したフリブール州の人々がその功績に対するお礼の印としてベルンで作物を売る権利を得て、翌年の1406年から市が始まったのが由来」というもの。しかし実は近年の研究でこの話は信憑性がかなり低いかもしれないという見方が強まっており、ベルン観光局Bern Tourismusのウェブサイトで公開されている昨年発表の広報資料„Der Berner Zwiebelmarkt (Zibelemärit) - ein junges Märchen und die alte Wirklichkeit“には「60年ほど前にベルン市街地にある学校の教室で生まれた大胆果敢な『おとぎ話』である」というもう一歩踏み込んだ話も掲載されている。それによると、フリブール州の隣人がベルン大火の後2ヶ月間に渡ってその後片付けを手伝い、焼け跡から見つかった貴重品なども盗ったりせず全てベルン側に届けたという偉大な功労者なのは史実。しかしそのお礼として彼らがベルンで市を開く権利を得てタマネギを売るようになったという話には根拠がなく、ベルン大火とタマネギ市は無関係。そのきっかけは全く別ものだったというのだ。


モン・ヴーイ地区はそもそもワイン用のぶどうの栽培がさかんな地域だが、ワイン農業だけでは生活上リスクが高いため、18世紀頃から農婦たちが兼業として栽培した野菜(主にタマネギ)を州都のフリブールやムルテン・ヌーシャテルなどの周辺町村で売るようになったのだそうだ。ベルンには11月11日の聖マルティヌスの日(マルティンスターグMartinstagもしくはマルティニMartiniと呼ばれる)近辺に夏半期から冬半期への移り変わりを祝う秋祭り的存在のイベントがベルン大火よりもずっと前の中世時代から存在し、お祭りと平行して開催されていた人気の週市では来たる冬に必要なあらゆる品物が売られていたのだが、その規模や需要が次第に高まり1439年からは時の政府によってその市が免税の「自由市」マルティニメッセMartinimesse/マルティニマルクトMartinimarktになったとのこと。この歴史あるマルティニメッセの初日に、19世紀半ば頃からモン・ヴーイ地区の農婦達が「タマネギ売り」として参加し始めたのだ。最初こそあまり注目されなかったものの、そのタマネギの品質や売り子たちの快活で明るくかつ礼儀正しい人柄はすぐに評判となり、1860年頃には「今やマルティニメッセはタマネギ市で始まる」という記事が新聞に載るほど話題になったそうだ。



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20世紀に入るとマルティニメッセは徐々に下火になり現在は残念ながら開催されていないのだが、この「タマネギで有名なマルティニメッセの初日」だけは「一日限りのタマネギを売る市場」として残り、これが今日のツィベレメリットになったというのがこの広報資料の結論だ。前出の「ベルン大火説」が事実だとすれば600年以上の歴史があるマーケットということになり、そうであればこれはかなりすごいが、実際の所はどうやら(マルティニメッセの歴史こそ長いもののタマネギ市自体は)1850年頃からの話であるらしいという見解が現在は有力だと言える。しかし起源がどうであれ、このお祭りがベルン人の大切な伝統行事であることに変わりはない。地元の子供や若者がコンフェッティと呼ばれる紙吹雪を投げ合いピコピコハンマーで訪問客を襲撃(!)する大騒ぎも恒例の慣わしだ。



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今年のタマネギ市開催は11月26日だったが、クリスマスの12月25日が日曜日にあたる年にはアドヴェントの第一主日が11月の第4月曜日の前日になるという事態が発生する。最近では去年がそうで、次は2016年にもそうなるのだが、ベルン人にとってタマネギ市の存在は特別。タマネギ市の会場でもクリスマス向けの商品はもちろん売られているし、街中でもクリスマス飾りなどの基礎的な準備こそし始めるものの、電飾を灯したり広場にツリーを出したりするのは(たとえ第一主日が11月の第4月曜日の前日であったとしても)タマネギ市が終わるまでお預け。タマネギ市が終わって初めて、ベルン人は本格的なクリスマスの準備ができるのだ。

 

トゥリュチェは素朴ながら熟練した高い技術を必要とする伝統手工芸品。大変魅力的なのでマーケットではつい買い求めてしまいそうだが、果たして旅行者が手荷物としてスイスから日本にタマネギを持ち込めるのだろうか?と思い調べてみたところ、日本入国時に空港の植物検疫カウンターで検査を受けて合格すれば持ち込むことができるとのこと。検査はほとんどは短時間で完了し、検査のための費用も必要ないそうだ。

 

 

記事執筆参考資料・出典およびウェブリンク

 

ベルン観光局 Bern Tourismus

www.bern.com

Der Berner Zwiebelmarkt (Zibelemärit) - ein junges Märchen und die alte Wirklichkeit, 2011

www.bern.com/files/?id=50671(上記ウェブサイト内掲載の広報資料、独語・PDFファイル)

 

Zibelemärit (スイス連邦政府文化省BAK提供のDie lebendigen Traditionen der Schweizウェブサイト内、独語)

www.lebendige-traditionen.ch/traditionen/00064/index.html?lang=de

 

„Zibelemärit 2011 in der Adventszeit“  Der Bund, Ausgabe 19. Dez. 2010

www.derbund.ch/bern/Zibelemaerit-2011-in-der-Adventszeit/story/18051675

 

海外から野菜や果物を持ち込む際の規制 輸入元:スイス (植物防疫所ウェブサイト内、日本語)

www.pps.go.jp/travelerss/view/imp/list.html?id=52&newwindow=true

よくあるご質問・海外旅行編 (同上)

www.maff.go.jp/pps/j/trip/oversea/faq/index.html

検査にかかる時間および費用についてはQ11を参照



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現地記者:Asami AMMANN-HONDA
スイス東部トゥールガウ州の農村在住。
元書店員、現在は兼業主婦(日本語教師&日独英通訳)。
趣味はスポーツ・園芸・料理、専門は音響映像技術。
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