チーズフォンデュの取扱説明書:理論編

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スイス

2012年12月 2日
カテゴリー:ヨーロッパ | スイス

チーズフォンデュの取扱説明書:理論編

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スイス人は「日本人を始め、アジア人の多くはチーズなどの乳製品を体質的に受けつけない」という説をかなり本気で信じている。スイスに来たばかりの頃には周囲のスイス人がよく「ホームシックにならない?スイスのご飯大丈夫?」と真剣に心配してくれたのだが、この「ご飯大丈夫?」はつまり「チーズ食べられるの?」ということ。この質問が出る度に「私を含めておおよその日本人はチーズが大好きで、先の話は都市伝説的なものですよ」ということを説明したものだった。

 

スイスの特産品・名物といえば高級時計・アーミーナイフ・チョコレート・そしてチーズ。その美味しいチーズを使って作られるケーゼフォンデュKäsefondue(=チーズフォンデュ)はスイス料理の代表選手だ。

 

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観光地のレストランでは一年中チーズフォンデュを出すが、スイス人にとっては基本的に冬の晩御飯。朝晩の気温が零度前後まで下がる日が増え、クリスマス関連商品の広告が巷に出始めるとチーズフォンデュもそのシーズンを迎える。簡単で美味しくて皆大好きで体が温まるので一般家庭でも頻繁に食卓に登場し、地域の自治会や音楽クラブが主催する「フォンデュの夕べ」なる親睦懇談会が開かれる機会も多いが、余程のこと(外国からお客さんが来る等)がなければ夏にチーズフォンデュを食べるという発想はない。

 

スーパーマーケットチェーンのコープCOOPが毎週発行している新聞で今シーズン初のチーズフォンデュ特集記事が組まれたのは11月の第一週目のことだった。記事のタイトルは「Das grosse Fondue-ABC」で、意訳すれば「フォンデュの『いろは』大事典」となるだろうか。BはブロートBrot(パン)・PはパンネンヒルフェPannenhilfe(困った時の「お助け」)・WはワインWeinなど、チーズフォンデュに関連する事項がAからZの各アルファベットで始まる見出し語ごとに紹介されているのだが、そのJの項目にあったのがヤパーニッシェ・トゥーリステンJapanische Touristen(=日本人観光客)の見出し語が付いたコラム。

 

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「日本人観光客はこのスイスの国民的料理を決まって試したがる」という一文で始まり、その後に続いたのが「しかし彼らの多くは他のアジア人と同様に乳製品を体質的に受けつけない」…また来たか!と思いつつ先を読むと「レストラン業界では『アジア人の観光客グループ一行がチーズフォンデュを食べた後のトイレには行かない方がよい』という話は定説」とある。これはチーズフォンデュを食べたアジア人観光客が食後に嘔吐してしまうのが珍しくないことを意味し、察するにこれが前出の都市伝説が誕生した理由のひとつとなったのだろう。

 

 

私が思うに、これは日本人を含むアジア人がチーズを受けつけない体質だからでは決してなく、チーズフォンデュというスイス料理についての認識に大きな「ずれ」があるのが一番の理由だ。スイスのチーズフォンデュというのは私たちが想像するところの「いくつかの他の料理と一緒に注文して頂く、お洒落で楽しい料理」という副菜的なものではなく、一人前平均200グラムという大量のチーズに白ワインやキルシュ(アルコール度数約40%のサクランボ酒)がたっぷりと入った熱々のチーズソースにパンのみを付け、チーズとパンとアルコールで胃が塞がるまで延々と食べ続けるというかなり強烈なご飯だからだ。メニュー書きには前菜や他の各種料理・デザートなどが存在するものの胃袋にそれらが入る余地はなく、チーズフォンデュと一緒に飲むものはやはり白ワイン(もしくはブラックティー)。初めて食べる方でも3口目ぐらいまでは大変美味しいはずだが、その後は単調な味(日本人にとってはかなり塩辛いはずだ)に徐々に飽きがやってくる。「お腹が一杯にはなっていないけれど、もう充分頂きました」と言いたいのに目の前には大量のチーズソースがまだ残っているという状況はかなり辛いはずだ。一回の食事で200グラムものチーズを食べるという桁外れな量に加え、それに含まれるアルコールの多さ、そして周囲に充満する熱されたチーズの濃い臭いといった不慣れな材料が合体すれば、いくらチーズが好きでも気分が悪くなってしまう人が出るのはもっともだ。メニューに外国人観光客向けの「お試し用チーズフォンデュ・超スモールサイズ」みたいなものがあればよいのにと心から思うが、チーズフォンデュというのはそういう性格の料理ではないのだろう。

 

最近はパン以外の「付ける具材」(それでもジャガイモ止まりだ)を出すお店もあり、チーズソースもトマトやカレーの風味が付いた亜種が人気になりつつあったりするが、いずれにしろそれを胃がみっちりと塞がるまで食べるということに変わりはない。レストランでは「注文は二人前から」という所が多いが、二人前ということはつまり「溶かしチーズが最低400グラム出てくる」ということ。レストランにはお腹が超空いた状態で行き、その日は他の料理はパスしてチーズフォンデュのみと向き合うことを前提とするのは鉄則だ。

 

 

チーズフォンデュの起源はフランスだとかイタリアだとか諸説あるが、どの説にも共通するのが元々は山岳地帯で暮らす貧しい酪農農家のご飯だったということだ。酪農農家なのでチーズはあるし硬くなったパンもあるが、それ以外はない。だからそれだけで何とかお腹が一杯になる温かいご飯を…と頑張った結果がチーズフォンデュだ。スイス西部の仏語圏では比較的古くからチーズフォンデュが食べられていたのだが、これがスイスを代表する料理として全国的に広まったのは1950年代にスイス陸軍が軍隊食メニューのひとつとして採用したからだそうだ。

 

現在のスイスではスーパーやチーズ専門店にはもちろんのこと、ガソリンスタンドや鉄道駅に併設されているコンビニの店頭にも数種類のフォンデュ用チーズ(溶かしやすい様にあらかじめ削られている)が確実に並んでいる。私の家の近所にあるチーズ製造所には何と「フォンデュ・アオトマートFondue-Automat(フォンデュ用チーズの自動販売機)」なるものが併設されていて、これはチーズ大国スイスといえどもかなりレアな存在だ。

 

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製造所直売の美味しいフォンデュ用チーズがいつでも入手できるということで、本来はシーズン外であるはずの夏場や真夜中にもフォンデュを求めるお客さんが頻繁に訪れるとのこと。丑三つ時にチーズフォンデュが突如として必要になるその理由は私にはちょっと思いつかないのだけれど、実際に需要があるのだから面白い。自販機に入れた商品が当日中に完売してしまう日も少なくないそうで、ドイツの国境から車で20分とかからない場所にあるという立地もあって、隣国からホンモノのチーズフォンデュを求めてやってくる顧客も多い。

 

その量やアルコールの多さという壁を乗り越えて「スイスで食べたフォンデュに恋してしまった」という方は、材料を揃えて本格的に作ってみたい・あの味や雰囲気を家でも再現したいと思われるはず。そもそもフォンデュってどう作るの?チーズ以外の材料は何が必要?ということで、次回以降の機会にチーズフォンデュに必要な用具や材料を含めた作り方などをご紹介したい。

 

 

 

記事執筆参考資料および出典

 

„Das grosse Founde-ABC“  Coopzeitung, Ausgabe 45/2012, Seiten 22-25

http://epaper.coopzeitung.ch/index.cfm?issue=564&top_pagenr=1&region=40&ressort=1#0

 

„Fondue aus dem Automaten“  Tagblatt Online, Ausgabe 05. Feb. 2011

www.thurgauerzeitung.ch/ostschweiz/thurgau/kantonthurgau/tz-tg/Fondue-aus-dem-Automaten;art123841,1681044

 

 

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現地記者:Asami AMMANN-HONDA
スイス東部トゥールガウ州の農村在住。
元書店員、現在は兼業主婦(日本語教師&日独英通訳)。
趣味はスポーツ・園芸・料理、専門は音響映像技術。
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