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2007年07月17日
カテゴリー:ヨーロッパ・アフリカ | オーストリア(東中欧)

アウシュヴィッツ収容所の改名騒動

6月末ニュージーランドで開かれたユネスコ世界遺産会議にて、
島根県の石見銀山が新たに世界遺産に登録され、話題を呼んだのは記憶に新しいところです。


その同じ会議にて、ポーランドの「アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制・絶滅収容所」が、
「アウシュヴィッツ・ビルケナウ−ナチス・ドイツの強制・絶滅収容所」と改名されました。
変更後の名称では、ナチス・ドイツによる収容所であることを明確に示す名前となっています。


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  「働けば自由になる」の文字が掲げられた収容所入り口の門 


アウシュヴィッツ収容所は、1979年にユネスコ世界遺産に登録されました。
この強制収容所では、第二次世界大戦中、ユダヤ人をはじめヨーロッパの28の民族が、
強制収容され、重労働をさせられた上、ガス室に連行されて殺されました。
戦争の悲劇を二度と繰り返さないために、人類の「負の遺産」として
後世に残すべきものとして、その歴史的価値が非常に重要視されている場所です。


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  収容所の「囚人」の出身地はヨーロッパのほぼ全土に渡っていました


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 ビルケナウ収容所入り口の「死の門」


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 「死の門」をくぐって鉄道の引き込み線が収容所内まで引かれていました

今回の改名騒動のことの発端は、アメリカなどの諸メディアにおいて、
アウシュヴィッツ収容所が「ポーランドの強制収容所」として紹介されたことでした。
これにポーランド政府が深い懸念を示し、正式名称の改正を要求したのです。


ポーランド政府が留意したのは、「ポーランドの収容所」という呼び名が使われては、
「ポーランド人がユダヤ人虐殺この強制収容所を造った」との誤解が生じるという点です。
それゆえ、ナチス・ドイツによる収容所であることが明確にわかるように、登録名称を
「旧ナチス・ドイツのアウシュヴィッツ・ビルケナウ強制収容所」 に変更するよう、
かねてからユネスコ世界遺産会議に要求してました。
この改名案は、一部ユダヤ人団体の反発をうけて保留となっていましたが、
このたび正式に改名されることとなったのです。


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 「囚人」が寝かされていたベッド

今回の名称改正決定をうけて、ポーランドのウヤズドフスキ文化相は
「歴史の真実が勝利した」と大歓迎、各メディアも吉報として大きく伝えました。


それにしても、名称一つになぜそこまでのこだわりがあるのでしょうか。


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 [写真] ビルケナウ収容所全景


ポーランドに来てからわかったのですが、ポーランド人は、
「ポーランド人がアウシュヴィッツ収容所を造った」
「ポーランド人がユダヤ人虐殺を先導した」
と誤解されることに対して、とても神経質な人が多いのです。


アウシュヴィッツ収容所は、そもそもポーランド陸軍の宿営地だったものを、
第二次世界大戦でのナチス・ドイツ軍のポーランド侵攻で大量に発生した「政治犯」、
つまりナチス政権に反逆する人を収容する政治犯収容所として用いたことが始まりで、
のちに各地のゲットーから輸送されてきたユダヤ人も収容するようになりました。
したがって「ポーランドの収容所」という呼び方は間違ってはいないものの、
ポーランド人がユダヤ人虐殺の当事者であるかのような誤解を招くのもまた事実です。


そうでなくともポーランド・ロシア・ウクライナ・リトアニアなどの旧東欧の国々は、
反セム人種的な国であるという歴史的な認識があります。それ故ポーランド人は、
ポーランド人が強制収容所を作り、ユダヤ人虐殺に率先して関与した、
との疑惑の目を向けられるのを、大変嫌悪しているのです。


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 [写真] 戦争では多くの幼い子供たちの命が犠牲になりました


思い違いといえば、「アウシュヴィッツはドイツにある」
と思っている日本人がとても多いことにも、大変驚かされます。
アウシュヴィッツの悲劇というと、日本ではドイツ人(ナチス)対 ユダヤ人という
説明のされ方が一般的であるからゆえなのでしょうか。
しかしポーランド人にその話をすると、今度は逆にびっくりされます。
そして「ポーランド人がアウシュヴィッツ収容所を造ったなどという発想は、
日本人には出てこない」と付け加えると、皆ほっとした表情になります。


ちなみに、そういった事情から、ポーランド人にアウシュヴィッツの話題をしても好まれませんし、
「アウシュヴィッツを見学に行く」というと、あまりよい反応が返ってきません。
「せっかく日本から来たのだから、わざわざそんな所に出かけなくてもいいのに」
「クラクフには、他に見るべき所は沢山ある」と、皆一様に顔を曇らせます。
また中には、「アウシュヴィッツはヨーロッパの悲劇の歴史なのに、
どうしてアジア人の日本人が興味を持つのか?」と真顔で聞いてくる人もいます。

ポーランドでは、アウシュヴィッツ、第二次世界大戦、ユダヤ人といったテーマは、
非常にデリケートな話題で、対内的にも対外的にも、発言には常に正確さが求められます。
そして誤解を与えるような発言があれば、ただちに訂正と謝罪が要求されます。
それを象徴しているのが、今回のアウシュビッツ収容所の改名騒動といえるでしょう。



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現地記者:ヴァシレフスカ・サチコ
2003年東京大学大学院終了 生命科学修士
同年4月ポーランド人の夫と結婚、ポーランドに移住
ポーランドにてフリーライターとして活躍
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